殺虫剤や殺鼠剤を定期的に広く散布するのをやめる病院が増えている。代わりに採り入れたのが、害虫などの生息調査を元に、侵入路をふさいだり、ごみ管理を徹底したりした上で、使う薬剤を必要最低限に抑えるIPM(総合的防除)と呼ばれる方法だ。従来の広範囲の散布と比べて、人体への影響が少ないというメリットがある。この防除で効果をあげている病院を訪ねた。(豊 吹雪)
 外来が1日約1700人の岐阜市民病院(岐阜市)。ゴキブリやハエなどの害虫を駆除する際、人体への影響を少なくしようと、01年度からIPM方式を採り入れた。
 病床数は609で、延べ床面積約4万3千平方b。3カ月に1度、10センチ四方の捕獲器を、ごみ置き場や調理室、廊下の隅など、発生しやすいと思われる300カ所に置き、10日後に回収した。どこにどの程度の害虫が生息しているか把捉し、その場所に殺虫剤入りの餌を置いて駆除する。
 餌はジェル状なので、噴霧式のように殺虫成分が拡散する恐れがない。また、ゴキブリは自分や仲間のふんを食べる習性があるため、置き餌を食べたゴキブリが巣に殺虫成分を運び、巣内も駆除できる。
 以前は、噴霧式の殺虫剤を3カ月ごとに散布していたが、それでも夏になるとどうしても発生が避けられなかった。しかし、01年春の生息調査以降、確認される害虫は確実に減少、今やほぼゼロに近いという。担当職員は「置き餌方式は巣にいる仲間まで駆除できる。根本から絶っていると実感している」と話す。
 岐阜市保健所は02年、市内の35病院で防除の実施状況を調査。適切な生息調査をしていたのは4病院だった。同保健所はこの調査を元に指導したといい、改善されていると話している。
 関東の市立病院(約600床、延べ床面積約3万8千平方b)も、今年度からIPM方式を導入、有機リン系の薬剤は原則使用しないことなどを決めた。
 昨年度まで、生息調査をせずに年に2回、有機リン系の殺虫剤を散布していた。きっかけとなったのは、散布中に同病院を訪れた小学生と幼児がめまいなどを訴えたことだった。化学物質過敏症の患者団体と話し合い、昨秋から防除方法の見直しを検討し始めた。
 今年6月、初の生息調査を実施した結果、病棟では害虫が認められず、殺虫剤は使用しないで済んだ。9月中には、ごみ置き場の状態や害虫の侵入路となる壁のすき間や窓の状態など、環境調査をする予定だ。
 福岡県立嘉穂病院(穂波町・250床)でも、「有機リン系の液剤を塗る方法では効果が短期的」だと、数年前から生息調査を元にした方法に切り替えたという。呼吸器科があるため、噴霧式の殺虫剤も使えない。その結果、厨房や配膳室のみ3カ月ごとに置き餌式の薬剤を使うが、病棟部分は害虫の発生が認められなかったため、通常は薬剤を使用していないという。
 
 
厚労省も使用見直し通知
 
 厚生労働省は04年11月、都道府県などに対し、医療機関での害虫駆除について安全管理を求める通知を出した。患者などへの健康影響を防止するためだ。
◎ 殺鼠・殺虫剤の不適切な使用を防止する

◎ 屋内に残留した薬物を換気や清掃で除去し、安全確保を徹底する

◎ 薬剤使用を前提とせず、発生状況や侵入経路などを定期的に調査し、必要な措置を講じるべきだ、など医療   機関へ周知し、指導するよう求めている。
 ただし、全国の病院でどのような防除方法がとられているか、厚労省も把握していない。
 化学物質による健康被害や環境破壊問題に取り組む市民団体「化学物質問題市民研究会」の事務局長・安聞節子さんは、全国の病院の実態を国や自治体が調査すべきだという。「病院は患者が行くところなのに、殺虫剤などが人の健康に影響することについて、配慮が足りないのではないでしょうか」と話している。
 
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異物混入嫌って 製造業でも次々
 
 防除に詳しい元千葉県衛生研究所次長で、農学・医学博士の林晃史さん(71)によると、衛生状態が悪かった戦後間もないころは伝染病予防が主目的で、毒性の高い有機リン系薬剤や有機塩素が使われていた。衛生状態が向上するとともに、目的もゴキブリなどの不快害虫対策に移り、低毒性の薬剤も市販されるようになったという。現在では、異物混入に神経を使う製造業などでIPMの手法を導入し、高い効上げている企業もある、という。
 例えば、化粧品を製造するファンケル美健千葉工場(千葉県流山市)では、01年から異物混入防止のための組織を発足。毎年5月と9月に生息調査を行い、昆虫が侵入しにくく、住みにくい環境づくりを進めてきた。4年前に比べると、捕獲数は半減しているそうだ。
 林さんは「有機リン系薬剤を定期的に散布するだけで、効果を上げていない商業ビルなどが依然、目につく」と指摘する。その上で、「病院やビルの防除方法を適切にチェックする第三者機関が必要ではないか」と話している。
2005年9月11日朝日新聞より
 
 

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